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STORY5【鉄板焼で女性であること】

デビューしてからも失敗の連続だった

ものすごく練習はしたが そんなに簡単にできるはずがなく 何度となく、くじけそうになった

最もつらかったのが、

お客様に100人中100人、女性であることを指摘されること

今ではあまり気にしなくなったが、最初の頃はその指摘をとにかく気にしていた

お客様にあいさつをする 瞬間返ってくる

「女性か」

「随分若いね」

そう落胆する声

それはそうなんだろう

お客様は超高級店で、腕利きのシェフが美味しいお肉を焼いてくれるものだと思って来店されている

目の前に明らかに若造の娘が出てくるんだから無理もない

お客様が決して、ガッカリしているトーンでない時も、私にしては同じだった「シェフをかえてくれ」 いらっしゃいませと言っただけで、そう言われたことも幾度もあった

その度に(ああ、またか..) と心の中でネガティブな感情を繰り返していた 次第に私の中で女性である事の劣等感が生まれていった

(どうしたらいいんだろう)

とにかく考えた

女性ということは事実 言われなくすることはできない

鉄板焼のシェフで女性は日本にあまりいない、 世界にもいない

年齢は年を重ねればいいだろう( 歳を聞かれた時は若干上に答えていた )

しかし、女性であることの偏見をどうしたらなくすことができるだろう

仕事をしている間中、女性であることが嫌でなくなる日は来るんだろうか必死に考えた

いろいろした中で ダイナミックな動きを取り入れ迫力が出るようにした

そして笑顔を絶やさず、余裕があるように振る舞う

鉄板焼の技術の向上も日々努力し、 肉を焼く時に最新の注意をし、 どういう火加減、肉の状態、仕上がり具合のデータを自分の中に記憶していき、どのような肉でも思った通りに焼けるようにして自信をつけた

どうしたらお客様に喜んでもらえるか

日々一流の焼き手になるよう努力し、 認められることで女性である事の偏見を無くそうと思った

スランプもあった

「女性だから..」 とばかり言われたことも原因で、また言われるのではないかと悩み、焼きにいくのが恐くなった

一番下なので仕込みの仕事もたくさんあった

それを理由にできるだけ焼きに行かなくていいよう裏方に徹し、先輩方が全員お客様を担当して、どうしても人が足らない時に、焼きに行った

そんな ある日、

担当したのは家族連れのお客様

お父さんと小さなこども3人とお母さん

お母さんは下の子、お父さんは真ん中の子、 お姉ちゃんはひとりぼっちだ

私はお姉ちゃんに話しかけた

人見知りな感じのお姉ちゃんは最初恥ずかしがっていたが、それでも徐々に打ち解け、2、3時間一緒にいたのでどんどん仲良くなった

そして最後は笑顔で私の似顔絵を描いて渡してくれた

初めてのことで、涙が出るほど嬉しかった

お母さんが帰り際に、

「女性に焼いていただけてよかったです。男性だとこどもが怖がるので。」

と伝えてくれた

お姉ちゃんの頭を撫でながら 「優しいお姉さんに焼いてもらえてよかったね。」 とお母さんは言ってくれた

私はこの時生まれてはじめて女性の焼き手でよかったと思った

その時から、強い劣等感が自分の中で和らいでいくのがわかった

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